海を見ている少年の風景

少年は、灰色の海を見ていた。
人類の全面核戦争から、十年が経っていた。
風がサラサラの髪を吹きなぶっていた。
膚は浅黒く、瞳はグリーンに澄んでいる。
その少年は、十五六才に見えるが、実際は十歳である。

サカナ、カニ、ウミドリ、イヌ、ネコ
何らの動物も、他に見当たらない
藻類や菌類の一部は 捕食者もなく繁栄していた
海の色、地面の色を変えるにとどまる
木々は、ネジレ、草は、ヨワヨワシイ
ただ、寄せては返す波を見ていた
ただ、強い南風が吹いていた
漆黒の雨雲が迫っていた

「一雨来そうですよ」
後ろから声をかけたのは、ロビィ。
放射能防御の三センチ装甲をまとったAI(人工知能)。
光電池で動くが、俊敏な動作はできない。
三時間ほどもかけて、知らせに来てくれた。

少年に名前はない。
呼び合う相手が居ないのだ。
今のところ。
あと、六年ほど待たねばならない。
彼のクローンの準備がなされている。
五年後には、養育カプセルから、解放できるだろう。
自分を何と呼ばせようか?
パパ、アナタ、トビオ。。。
トビオが良い
二十世紀のアニメの主人公だ

彼女は、女性にゲノム編集してある
僕の、妻になる
全てが、夢の世界と区別できない
しかし、現実だ

彼女を何と呼ぼうか?
ウランだろうか?
でも、それじゃあ、妹になる
ミツコが良い
僕を作った母さんだ

彼女は、放射能で死んだ
僕に映像だけを残して
全てが、夢の世界と区別できない

ミツコが作った他のゲノム編集人間は
僕以外悉く、胎児のうちに死んでしまった

僕は、長い夢を見ていた
ミツコも色んな夢を見るだろう
母さんが残した子守唄を聴くだろう
言葉も文字も数学も映画から学ぶが、
遺伝子工学は、母さんから学べる
ほんの少ししか無いが、貴重な映像だ

昔は、沢山の人が住んでいたそうだ。
沢山のナキガラを、ロビィたちはきれいに整理したそうだ
ロビィたちは、繋がっている
自分達で、増える
作ったのは、母さんじゃない
装甲板を設計したのは、友達だったそうだ
彼らは、僕の乳母
友達
別の生き物
人類の希望

僕を生かしてくれる
彼らによって僕は生かされている

時には、お節介だが、何もないよりズット良い

僕に希望はあるか?
判らない
今のところ生きている

少年の環境は、悲惨で、未来も予断を許さない
しかし、ひどく楽観的になり、光が射し始めた。
同じ失敗は繰り返さないという自信があった。

少年が微笑んだ
ミツコト アエル
なんて幸せ!

ロビィの言う通り
雨を浴びる前にドームに戻る方が身のためだ
太陽フレアが活発化している
ロビィ達の活動が止まりがちだ

今夜はオーロラが綺麗だろう
映像を残してミツコに見せよう
ミツコの感想が聴きたい

明日は晴れるにチガイナイ

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