ブービートラップ

午後八時五十九分

ぴ。

カウントダウウン。

ぴ。

「チーム戦開始まで、9、8、7、6、5、4、3、2、1…。ゼロ。」

「チーム戦開始。」

ボーカロイド=初音三久が登場。

21世紀のディーバ。

音階発声からフェードイン。

高らかに歌い出す。

宇宙の中空に浮かぶ銀色のコスチューム。

ドレープがはためく。

目の前にクロスした腕を開く。

閉じていた瞼がパッチリ見開く。

“宇宙の進化の歌”が始まる。。。

「輝く、あまたの、ブラックホール。

あまたの、進化のパラメタ。」

完璧な出だしだ。

 

私が、携帯電話のゲームを開くのは、三年ぶりになる。

それでも、感心ばかりしてられないのは、これが、

先頃起きた集団自殺事件の捜査の一環だからである。

 

事件は、一ヶ月前の、21時半。3872人の人が、一斉に自殺を試み、半数以上、2008人

が、既遂に終わった。

30分以内に実施した3872人の自殺行為のうち、3155人が、飛び降りだった。

 

共通項は、このゲームのチーム戦を実行していたことであったのは、すぐに判明し

た。問題は、実行していた母数にあたる150,645名からのプロファイリングが全く出来ていないことだ。

かくいう私は、警察と民間組織の融合体に属するスーサイド=ネゴシエータ。56才、バツニのおっさん。

職業柄、この手のプロファイリングでは、日本で第一人者とされている。

サーバデータ管理公団とデータ監督庁の協力で、三次の項までの、多変量数値解析のクラスタリングが出来ているのに、未だに「なぜか」ということに関して、五里霧中なのである。

 

くだんのゲームは、単純なパズルゲームである。

パズルの一面クリアごとに、イメージキャラの初音三久が画面上部で宙返りして喜ぶ。

10回連続でミスすると、悲しんで、塔から身を投げてしまうことがウケているらしい。

21時から21時半は、チーム対抗戦で、その日に獲得したスペシャルアイテムが利用可能になる。

敵チームのボスキャラを倒せば、更に強力な常備アイテムを獲得する仕組みなのである。

 

手詰まりの私は、やむなく、パソコンユーザーで死亡したケースのパソコンを1台入手し、プログラム解析結果を用いて、組合せの再現実験を始めた。

パソコンのtime of dateを当日21:30に固定し、15万ケースのidで、くだんのプログラムを当時のログに沿って動作させた。

もちろん、端末環境およびネット環境は違うので、賭けとしての勝率は低い。

ケース母数の大きさに期待しただけのことであった。

1週間後、私は19例で観測された共通事象に着目していた。

 

19例で、ゲームソフトは、共通の外部サイトにアクセスしたのであるが、ウイルスに酷似した

動作であったので、ウイルス対策ソフトは、送信メッセージをソフトウェア領域にコピーした。

結果として、ダウンロードデータ内部の、とあるアドレスを破壊したのである。

ウイルス対策ソフトの誤動作により、ダウンロードした初音三久の音声は、

とびきりキュートな猫撫で声で、次のように語りかけた。

It’s time to die

今こそ死ぬとき

この音声は、ソフト会社の企画会議で没になったものらしい。。。

ふたつのソフトの誤動作が重なった、不運な事件。

 

私は、缶詰になっているビジネスホテルの一室で、

死別した妻を思った。

結婚で、得られた息子を思った。

妻とともに5階から転落した、今は亡き息子。

そして、ふたたび、初音三久の声を聞いた。

“今こそ死ぬとき”

三久は優しくささやいた

私は、非常階段のドアに向けて、一歩を踏み出した。

 

。。。。。。

 

ドアを開けると、私の仕掛けた髪の毛サイズのトラップが、発動した。

私のケータイが振動し、亡き息子の合成音がつぶやいた。

「今晩は。おとうさん」

 

ああ。懐かしい声だ。

視界のドアが、くちゃくちゃになって、流れ落ちた。

涙が溢れたせいである。

ドアノブが視界から飛び去り、天井が見えた。

膝の力が抜け、仰向けに倒れたせいである。

涙まみれ。

汗まみれで。

倒れちまった。

顔は、洗ったように、ビショビショだが、不思議な爽快感がある。

感情が浄化されて、赤ん坊になった気分だ。

目に写るすべての色彩が、言葉をまとったように、意味ありげに躍動している。

ことに、遠くに見える何でもない山裾の、緑が、

キラリと、一瞬だけ私に挨拶を送った。

 

息子は、言った。

「明日の予定は、ダイジョウブだよね」

そうだとも。

お父さんは、お前に、いつでも会えるんだ。

死に急いだりしないさ。

明日は、可哀想なサカモトさんの娘さんにお会いするよ。

そして、

申し訳ないが、息子の分まで生きてほしいとお願いするよ。

君に会えば、、、、君にさえ、会ってもらえば、、、

きっと、わかってもらえると思うんだ。

 

人生は生きるに価するものだと。

私のように、生かされてしまうものだと。。

息子のように、素晴らしい誤算が潜んでいるのだと。。。

私は、オモッテイル。

 

そして、私は、起き上がれない。

2008人の魂と、私の息子の魂が、

(実は私の魂が)、カチッと噛み合って新しい世界が出現した。

2009個の融合時エナジーが分離時エナジーを下回ったためだ。

巨大な、、、初音ミクが、、、出現した。

「輝く、あまたの、ブラックホール。

あまたの、進化のパラメタ。。。。。」

自殺は止めうるか

私の神奈川県における6年間の活動は、上記のテーマの追求が課題でした。

私は、自殺したいと言い続ける人々に、落ち着いた声が戻るまで、2時間3時間と電話を続けました。しまいには、私自身の中学生の時の経験から、精神的に死んだと思えば、楽にならないか?といった、無茶な提案もしました。

予想出来たことですが、自殺は、やみませんでした。

彼らの死んでしまった例、支援者の自殺に近い事故死、いずれも共通点があります。

覚悟の自殺など、見られなかったことです。「何かしなければ」という、想いが、飛び降りになり、睡眠薬のOverDozeになり、泥酔後の孤独死になったのです。

100回に1回は、止めきれないのです。100回ODすれば、身体の弱った100回目には、吐くことも出来ずに、死に至ります。

私の正面切った言葉は、届きましたが、届かないこともあります。

想いが強すぎると、プロの職員のやりかたが、虐待に見えて来ます。そこで、資金の尽きた機会に、引退致しました。

自殺を阻止するための、電話対応は必要です。しかし、私は、文字の語る文脈として、人間の弱さをも、肯定したいと思いました。弱さの肯定にも、強さがあると、信じております。

追記)なお、初音ミクの冒頭場面については、以下の動画をイメージしております。

Nebula

ハツネの文字が最初と最後で違うのは、2つのパラレルワールドのうち、現在の宇宙がこのエピソードで出来上がったという設定によるものです(笑)

電気のうた

0.     プロローグ

サァ行こうとカンゴシがささやく

28番のかたどうぞーとドクターが呼ぶ

ヤメロー

ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ、

ヤメロヤメロヤメロ

YAMETEKUREEEE

俺の言葉はこえにならない

 

1.     入院

俺は早野公平。都内に下宿する大学3年生だ。俺がいまだに3年生なのは、当然に理由がある。去年はさんざんな一年だったんだ。渋谷のブティックに勤める彼女にふられ、2年続いたバイトも喧嘩してクビになり、やけ酒と彼女に貢いだお買い物で自己破産して、親から勘当になり、大学に通う気もなくなって留年しちまったわけだ。彼女の名前はエイコ。英子と書いて、エーコと読むの。それが、本当にエエコなわけよ。足首がキュッとしまっていてさ、赤いサンダルが滅茶滅茶似合ってさ、俺はメロメロだったわけよ。ナノニ、ナンデ〜〜?? オレハ、カナシイヨ。それでも、俺は、酒を飲むとすぐに眠くなる体質が幸いして、身体をこわすこともなく、まったりと高級酒をあおっては、生活保護を受けて玄米食のみの生活で、安定した経済状況にあったわけよ。

ところが、だ。俺が、隣に住むMさんの尊大なまなざしに疑いを持ち始めて3年間。我慢にがまんにガマンを重ねたすえ、フラストレス3番線にのって、Sクリニックに通ったのは、当然に、重大な結果をもたらしたのさ。

その1年後には、立派に統合失調症の診断をいただいて、N精神科病院に入院が決まったのだ。

N精神科病院はフラストレス3番線に乗って、ふた駅、徒歩3分にある便利な大病院。

近代的な白亜の城。

若くてピチピチの看護士が200名、サービスを提供すべくお待ち申しております。おります。おります。

製薬会社との完璧なコラボレーションを目指す崇高な理念の元、県庁からも信任あついことを示す感謝状を待合室に掲示。

なにしろ、廊下の幅は3mもあるし、どんなに大きな担架も3車線の余裕で通過可能です。

俺はと言えば、聖ヒエロニムスのように禁欲的に、

ベートーベンの憂いをおびて、

シューマンのように才能を開花させ、

直ちに保護室にぶちこまれた。

最初の筋肉注射の猛烈歓迎に、さらに猛烈に反応して、男の看護士を殴ってしまったためだ。

猛烈に反省、反省。

反省。

 

2.     治療

やがて、憂鬱な日々が始まった。

「出ろ」という、太った巨漢の高圧的な看護士の言葉。

連行された小部屋には、あと二人の痩せた看護士が待っていた。ベッドと小さな無線機があった。

「ここに横になれ」と言われた俺は、躊躇したね。

なにしろ、拘束ベルト付きのベッドだからね。

でも、巨漢看護士は否応無く俺を突き飛ばして、やすやすとベッドにくくり付けたね。

俺は、無線機のヘッドホンをかぶせられ、痩せた初老の看護士がスイッチを入れたね。そこで意識が飛んだ。

俺の中で99羽のブラックバードが歌い出す

モーレツな波の中で俺の身体は荒波の中の難破船のように

よじれ、反転し、全ての内臓が明らかになる

アニミズムの信奉者達のタイコのリズムが響く

ズンドド ズンドド ズゥン ズゥン

すっかり囲まれてしまった

ひざが、がくがくし、アドレナリンはマックスだ

遠くでサイレンが鳴っている

たぶん、上流ダムの放水がはじまるのだ

河口付近に もやっている船団が一斉に汽笛をならす

全てが不気味で不吉でサイアクだ

俺は電気の身体を歌う ザザザザザザージンジ

頭の中でオシチが半鐘をならす ガンガンガン

すべてが空中で崩れ、拡散し、形を失って行く

ズンドド ズンドド ズゥン ズゥン

無意味な空白になってしまい、空しさに包まれる

頭痛と吐き気と関節痛にのたうちまわる

ズンドド ズンドド ズゥン ズゥン

つぶれたカエルを口に含んだように胃袋から胃液が逆流する

ツートト ツー

ドップラー効果意味無し

おいらん 発掘中

民主党は 衰退

やってられないんだよ

ウーララ ガビーーン

ユニックスは バグッタ

ピースフル ジャパン

カネミ化学は ドジッタ

クラースナヤ プローシャチ

イプシロン 漂流中

やってられないんだよ

福島原発 異常アリマスカ〜〜

ラビリンス

シネシネシネー

岩倉ともみシネ

やってられないんだよ

税金の無駄遣い

やってられネえんだよ

イワンの馬鹿

おいらん かんざしをなくす

やってられネえんだよ

ピチャッ  ピィーーーーン

ついに意識が失われ、俺はやっと休止符にたどりつく

ここが終わりだ オレハ モハヤ ムテキデハナイ

カンゼンナル無

毎日がこれの繰り返しさ。

毎日、毎日、毎日なのさ。

やってられネえんだよ。

やがて、俺に変化が訪れた。

すばらしく幸福な感じになってきた。

それでも頭に電気を通電されるのは憂鬱。

なにがなんだかわかんねえ。

「この番組は、ご覧のスポンサーの提供でお送りしました。」

俺の頭の中で、声がかけめぐった。

急いで、ケーキセット しらたまあんみつを試食せねばならない。

ここはバージニアウルフの意識の流れの手法で書かねばならない。

ライド ア コックホース ツー チャリングクロス

俺は、とってもハッピー。

最初から個室とは  ゲンがいい。

 

3.天尊降臨

俺様は地上に降り立った。

何も覚えていないところを見ると、神業のような早業で病院を抜け出したに違いない。エスパーである俺様は、こうしてセブンイレブンショップに来ている。

あいにく、何を買いに来たか思い出せない。

サイフを見てもペッチャンコなので、金は無いらしい。

俺様は神様なので、神業のような早業で、何を持ち帰っても凡人には気付かれないに違いない。

俺様は、カップラーメンと冷凍たこ焼きを手に取った。

神業のような早業で、店を出ようとした。

そのとき、呼びかけられた。

「お客さん!」

そのとき、それは、始まったね。

視界がぼやけ、なんか、なにもかもが2重に見えるんだ。

俺は思い出した。

「はじめてじゃない」

「はあ?」

緑の顔をした宇宙人がいぶかしむ。

「はじめてじゃない」

「はあ?」コンビニ店員がいぶかしむ。

1回目は、緑の顔をした宇宙人。同じく緑の宇宙服を着ている。

2回目は、コンビニの店員。ロゴ入りの黄色のエプロンを着けている。

そう、同じことがさっきもあった。

俺は宇宙人の攻撃を避けようとして、軽く身体をずらした。

そしたら、ゆっくりとした俺の動作にもかかわらず、看護士の掴んでくる腕を悠々とすり抜けたんだ。

多分、俺は、毎日の通信業務から逃れたくて、エスパー的な武道の心得を習得したに違いない。

初めてじゃないんだ。

今度も俺は、コンビニ店員のつかみかかる手を間一髪ですり抜けた。

「ドロボー」と叫ぶ宇宙人。

「ドロボー」と叫ぶコンビニ店員。

俺は、宇宙人もコンビニ店員も無視して、悠々と店を後にしたね。

今日は、とってもいいお天気。ぬけるような青空。

 

4.スーパーマン

そらを飛ぶもの。

鳥だ。

飛行機よ。

いいえ、それはスーパーマンです。

彼こそは、アメリカの平和を守るため、日夜働いているのです。

俺様はそのまま地下鉄におりて行ったね。

チケットのゲートは簡単にすり抜けたし、駅員の呼び止めるのも、人ごみで難なくふりきったね。

駅員はすぐ諦めたね。

でも、俺様の視界は再びぼやけた。

ピーンボケ。

緑の宇宙人がホームを落ちて行く。

すぐそこに、迫り来る地下鉄車両。なにやら叫んでいる。

うるせーーんだよ

ジャケットのエリを掴んで、そいつを引き止める俺様。

中年のさえない会社員が、しばし、おれを見つめた。

呆然としている。

ボケちゃいるけど、足を滑らしたところを、俺様が俊速で助けたのに気付いたらしい。

めんどうくさいンで、俺様は俊足で奥に進んだね。

13両目に乗らにゃならんのよ。

「さようなら宇宙人」と声に出していた。

 

5.スーパーマンその弐

カップめんと冷凍たこ焼きで武装した俺様は、万能感にあふれていたね。

いつもの公園で俺様は、ベンチに腰掛けた。

緑の輝きが、がすがすがしい、春の一日だ。

まだ、日は高く、風も心地よい。

ふと見ると、すぐ横にカワイコチャンその1が腰掛けている。

シクシク泣いているんで、まわりの通行人は避けている。

俺様だけが、な〜〜んにも気付かずに青空を眺めているわけだ。

もいちど、カワイコチャンその1に目を戻す。

白いブラウスに清楚なブレザーは、なかなか良い。

お下げ髪も、整った、ちっちゃなお顔もイィよ。

指先大のビニール袋らしきものを涙目で見つめている。

オイ ヤメロ

ナンデ ミドリニ ナルンダ

オレサマハ ナ〜〜ンモ シランゼ

宇宙人もカワイかった。

でも、ビニールをあけて、口にかざすと、すぐに顔色が茶色にかわって どす黒いブスになった

ゆがむ顔から苦しむ声が漏れた

俺様が飲まされていた薬より、かなり強烈な薬らしい。

ヤメロって 言うトンジャ

俺様は立ち上がり、カワイコちゃんから、間一髪でビニール袋をひったくった。

うるんだ瞳が俺様を見上げる。

やっぱりカワイーィ。

俺様は、またしても俊足で、その場を去ったね。

メンドクセー

俺様はブスが大嫌いなんじゃー

6.ス−パーマンな日々

緑化現象が1日に3回もあったのは、最初だけだ。

だいいち、あれは俺を疲れさせるのよ。

たいていは、俺の必要を満たすのはコンビニでの食糧調達で、

1日1回で十分なわけよ。

だからぁ、俺様が次のメンドクセー人助けをしたのは何日も後のことだなア

スーパーマンには敵がつきものなのさ

コンビニをやってるあいだは、敵はトロイ警官で、俺様は難なく敵を振り切った。

やがて、本物のオトロシイやつらが、俺を付け回すようになったのは、俺が目立ちすぎたせいに違いない。

その日、俺はコンビニを物色するためにサザンストリートを歩いていた。ビル工事の目隠しをする白いトタンの横だ、切れ目に見えたクレーン車の操縦者が緑化しやがった。

そいつは、何かの発作で居眠りシヤガッタ

クレーンにぶら下がった鉄骨がこっちに向かってきやがった

ガラガラビッシャーーン

キャー

この通りは、人通りが多いし、たちまちの修羅場よ

俺だって無事じゃ済まないに違いない

俺はあせったね

最近は、慣れているから、余裕は20秒しかないとわかっている

モウ 7秒ハ タッテイル

俺は、13秒で、クレーン車に乗り込んで、緊急停止させた

すぐ横で 運転手のジイさまは 眠りこけてやがった

日雇い土方していた頃のことさ。俺は、同僚の昼休みに声をかけたことがある。

そのとき、これと同じメーカーの車両で、同僚は俺の目の前で、非常停止の赤いボタンを押たんだ。

なんで、俺一人が逃げなかったかって?

俺は、あの悲鳴ってやつが大嫌いなのよー

エスクレメントウーゥ

ボクハジェッター 1000ネンノ ミライカラ トキノナガレヲコエテ ヤッテキタ

リューセーゴー オートーセヨ

もちろん、ここでも俊足で逃げたんだが。。。。

それからだよ

てごわい奴らが俺をつけまわしはじめたのは

奴らは、けっして警官に見つけられなかった俺様のアジトのそばに張っているんだ。しかも、けっして近づいてこない。

複数いて、どいつもこいつも。

いっつも ひとりごとを ブツブツ ブツブツ 呟いとるんじゃ。

キモチワルインジャ〜〜ッ

 

7.拉致

彼は自分を助けることができなかった。

20秒後に自分が拉致される場面は見えていた。

ところが、拉致しようとしている男が、キラキラ光る魅力的なリストバンドをプレゼントしてくれたのだ。いきなり両手に付けてもらった贈り物に男は魅了され、永続的に自由を失ってしまったのである。あっけない幕切れで、彼は拉致された。

8.監禁

 俺は、新しい病院の生活に速やかに順応したね。なんといっても電パチが無いし、メシは病院より美味いし、アホズラした看護士が、頭のよさそうなお兄さん達に変わったのは、きっと、病院の経営改革の成果に違いないと、俺はにらんでいるよ。でも、窓は無いし、景色は悪いわな。おかげで、俺は時計を見ても、昼の12時か夜の12時かわかりません状態さ。

 ときどき目隠しと手錠で、いろんなところに出かけたよ。スーツを着た看護士達は必ず二人以上で、緑の画像が見えていても、逃げ切れなかったね。やつらは、まず、俺に手足をがんじがらめに固定する器具をつけるんだ。つぎに、看護士の一人がリモコンのスイッチを入れると、俺は不思議なくらい自由に動けるんだ。俺は試しに、リモコンを奪ったね。だって簡単なんだもん。でも、奪ってすぐに、固まった。誰かが、俺のことをモニターしてるのさ。モニターのカメラがどこにあるかは、わからずじまいさ。

 どこに移動したか、いつも車に乗せられたね。病院のくせに、他の病院ばかり利用していた。きっと、零細な個人病院なんだ。他の患者もいなかったしね。脳波の計測、X線CT、注射して、またX線CT。注射しても、不思議と、具合悪くならなかったよ。薬も改善されているんだな。いろんな変な絵を見せて、えんえんと話をさせられることもあったな。俺は、いいかげんに答えておいたよ。もっとも、俺様をふった英子の写真が出てきた時は冷静にはおれなかったけどね。俺は、電パチされるから、必死にこらえたよ。医者もずっとましだ。ニコニコしてる医者も、医療改革の成果だ。ほとんど無愛想な表情と無言で拘束や注射の指示を出していた頃とは大違いさ。

 暑い日も寒い日も何度か経験したから、たぶん、2、3年てとこかな。お兄さん達は言うんだ。「何か欲しいものはあるか」とね。俺は、いつも、すかして言ったもんだよ。「山岳写真の写真集を」。

 おかげで、ベッドとテーブルだけだった俺の病室は本だらけになったね。俺より高い書棚だけで4つが満杯になった。朝日に映えるエベレストや、緑なす牧草地に対照的なユングフラウ、頂上で登頂を喜び合うパーティを写した穂高のご来光。俺は、とっても癒されるのさ。俺は、逃げる気もなくなったね。ここに居れば、なんぼでも本が手に入るからさ。部屋も窓付きに昇格したことだしね。高窓だけどね。

 人が面会に来たこともあるな。

エイコにそっくりさんだったけど、俺はだまされないさ。

部屋に通された時は、びっくりだったけど。

「エーコ?」

「公平」

声は似ていたな。

「元気?。。」

でも、赤いサンダルじゃない。

「私たちは、ほんの3回くらいしか会ってないけど、ここの人たちが会えというの。私を覚えてる?」

「元気さ。君はエーコじゃないけどな。」

だまされるもんか。

顔が小さくて、クリクリした目は一緒だけど、目尻のしわを、俺は見逃さなかった。見事な曲線を描く筈の足首も、不格好なブーツで隠している。

それに、いつもと違って笑ってない。

悲しげに見えるのは嘘をついているからに違いない。

こいつはニセモノだ。

「あれから、いろいろあってね。私は結婚したのよ。」

そーだよ。これは、完全に偽物だよ。

「ゴメンネ。ここの人がお金をくれるというので、きちゃったけど。。。。あなたのことも、嫌いじゃなかったし。」

「だまれだまれダマレ。」

俺はブチきれた。

「お前と話すことは無い」

「2回目のデートでいきなりプロポーズした、あなたがいけないのよ。私たち、そんなに知り合ってなかったんだし。こんなことになってるなんて。。。」

大きな瞳にたっぷりな涙をためて、エーコのそっくりさんが泣き出したので、俺は部屋を飛び出した。

出口に待ち構える二人の看護士は、俺を捉えるのを知っていたけど、俺は喜んで捕まってあげたよ。俺も、もらい泣きしちまって、視界がぼやけていたんだ。

そんなこと以外は、俺の毎日は平穏だったよ。

9.解放

 俺様の入院生活は、突然終わったね。

祝退院。

アリガトゴザッマーース。

俺様を退院に導いたのは、とある夜中に、これまたスーツを着た男達が10人くらいも俺様の部屋に乱入した訳だ。俺様は怒ったね。

「ふとどきもの。控えおろう。ここにおわすをどなた様と心得る!!」

でも、その中の一人が歩み寄って、言うんだ。

「早野公平さんですね。我々は、この製薬会社のアジトに不法監禁されているあなたを救出に来た者です。政府関係の機関ですが、あなたの罪を問うことは一切しません。。。。」

俺様は、かまわず続けたね

「恐れ多くも、スーパーマン様でアーールッ」。

「。。。あなたの人命救助の数々を、我々も高く評価しているんですよ。これからは、あなたの自由を最大限に保証しますから、我々のほうに協力を願いたい。」

俺様は言ったね。

「山岳写真の写真集を!!」。

俺様は、とりあえず、シーツみたいなものにぐるぐる巻きにされて、第二のシャングリラに向かった。

 

10.エピローグ

彼の狂った理性は、自分の見ることの出来る2つの世界を区別出来ていなかった。ネガフィルムとして見えている未来映像と、リアルタイムの20秒後の世界の違いは常に混乱を招いていた。すなわち、自分を含む数々の人助けは偶然の産物だった。彼の動作も、お世辞にも早くはない。単なる予知能力で見切っているに過ぎない。いわゆる予知が、どうしてことごとく当たるのか、どの神経回路が20秒という時定数を決定しているのか、それは謎である。単に、もともとある視覚情報過敏性が高まったものであるのか、神の無作為な気まぐれか、製薬会社も政府関係機関も解明してはいない。ただし、彼の「未来を変えられる」という、結果としての能力は、圧倒的な意味を持っていると結論づけられた。

後日、政府関係機関が提供した画像遅延メガネは20秒の予知を、1秒から20秒の間に自在に調整可能とした。彼はタイムパトロール隊員のように、自分の時をコントロールし始めた。

「俺は生きる」

彼は、漠然と思うのだ。

「次に何をしようか」。

電気ショック療法に反対する

私には、自分の妻に対して、電気ショック療法の適用を本気で考えた時期があります。それは、「どんなに辛くても生きていてほしい」という気持ちからでした。

検討の結果、日本で最も有名だった中井久夫という医師の意見に従い、適用を諦めました。自殺念虜の強い患者さんにすら、有効な治療法とは言えないことが、理解できたからです。

その後、現実に、適用された方に会う機会がありました。その方が一般人より有能だった証拠に、学生時代のバイト代の預金で、海外まで旅行可能でした。私がお会いした時は、自殺念虜と、ご両親への怨念の固まりでした。私が間に入っても、ご両親への暴力を抑えることができませんでした。

有能だった方ほど、無惨に、その能力を失う例を、他にも2例、伝え聞いております。そのうちの、一例では、「楽になりました」とおっしゃった後に、専門技能を失って失職され、自殺されたとのことです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ちなみに、この独白は、ひどく読みにくいでしょうし、苦痛に感じるで有りましょう。精神科医の言うところの、「言葉のサラダ」という症状です。医師の聞き取りは、せいぜい5分ですが、私の知り合いは2時間でも3時間でも、切れ目無く、話し続けます。私も疲れますが、1時間くらいから、話の流れが掴めて来ます。

ルイスキャロルのsnark=snake+sharkのような、造語もふんだんです。

彼ら、キチガイは、愚か者と違います。我々凡人には無い、独特のセンスを備えています。不幸にして、過敏症なのが、一般的です。

愚か者は、鈍感で凡庸な、我々健常者の方です。

目覚めないと言う声が聞こえ

0.     プロローグ

淡いクリームイエローのカーテンが風に揺れた。まだ起きたくない。もうすぐ、グリーンの体色をした友人が窓から現れるかもしれない。起き上がれば、ががが。いつも通りの暗くじめついた部屋に違いない。母が叱る。ガガガガ。危険。カーテンが軽やかに舞う。安全。あ、誰か肩に触った。ガガガガ。危険。グリーンボーイが逃げる。

グリーンボーイは僕のことを誰よりもわかってくれる。

優しかった母よりも、冷たい父よりも。

母は、動かなくなってしまった。

胃が灼熱してキリキリと痛んだ。頭痛がした。

足がピクピクして、身体がのけぞった。

いつものように、さっき飲んだミルクを少し吐いた。

死んだのだそうだ。アリンコのように、枯れた生け花のように。漁村を、臭いにおいで埋め尽くす魚の干物のように。ブルーボーイが言っていた。

あいつは、僕のことを悪く言う。僕しか知らないことを知っているのは、僕の右腕の中に盗聴器をしかけたからだ。ガガガガ。でも、僕は何度も腕を柱に打ち付けて、盗聴器を故障寸前までにしてやった。ガガガガ。今は、雑音まじりで聞きにくい筈だ。

僕は同時に、あらゆる引き出しの中にリセッシをまき散らして、消毒した。

けがわらしいブルーボーイの手下となっている虫共を駆逐してやった。

今では、ぼくのことを告げ口することも難しいだろう。でも、油断しちゃだめだ。

電車の中にも、コンビニの客にも、ファミレスの従業員にも、やつに洗脳されたゾンビがまぎれ込んでいる。奴らを見分けるのは難しい。見分けるための質問は、10問から20問。質問は簡潔であるべきだ。質問はノートに書いてある。でも、ノートをなくした。陰謀があるに違いない。

ホワイトボーイもグルに違いない。おとなしそうな顔をしているのが証拠だ。

おまけに、あいつときたら、昼ご飯の弁当にミルクをかけて食べるんだ。

おれは、ちゃんと見ていたんだ。あいつが悪い宇宙人だと気付いたことは秘密にしてある。

だから、僕はしばらくは大丈夫だ。あちこちに目配りして、担任の教師にも慎重に受け答えしている。僕は大丈夫。

大変だ。目を見開く。

たちまち、3人の白衣をまとった看護士が、立ちはだかった。

僕を押し倒し、両手足を押さえつけた。

一人が、僕の腕に注射針を突き立てた。

1.     コールドスリープ

シェルターは200年をリミットに設計されていた。途中で発見

時には光も発した。中に収容された人物のいきさつを三ヶ国語でビ

ットマップ画像とアスキーコードにより解説している。

設計者の主なポイントは、生理学的な循環システムと、地中に埋

めることによる地殻変動への耐性にあった。

すなわち大便、小便、汗の大量な処理が宇宙船における最新の技術

を駆使しても厳しいことを認識していたし、あえて小型原子炉を使

うという危険な選択をして解決した。

すなわち、大量の水と必須アミノ酸以外の、熱、光、ビタミン、ミ

ネラルは備蓄したものを使うというシンプルな思想により、循環の

2連鎖から切り離したのである。収容者は自然放射能より幾分強い放

射線を浴び続けるリスクはあるものの、それを必要悪としていた。

また、地殻変動に関するシェルターの強度、および、経年劣化対

策でも、宇宙開発の最新鋭のテクノロジが駆使されることとなった。

コールドスリープ社は、この2つのポイントにおいて、同業他社

の類似技術を圧倒したし、単一の企業体としては珍しく、150年

あまり存続したのである。

コールドスリープ社のビジネスモデルも単純明快であった。

それは、「ご家族の死を回避する」ことにあった。

宇宙船1せきに相当する莫大な対価を要求するものの、家族の死に

行く姿を見ずに済むのである、多くの資産家が、子供のために、自

分のために、「永遠の生命」を購入した。

結果は、予想通りというか、99%は、失敗することとなる。

肺や心臓、腎臓、肝臓といった疾患を背負った収容者の身体は、人

工栄養によって維持するには負担に耐えきれなかったし、筋肉シス

テムの維持だけとっても、微弱な電流パルスによる疑似運動は、生

体の維持に不十分なことが多かった。希望は、個体差による幸運を

享受した1%のみであった。

テクノロジの進化が、臓器移植によらず、人工臓器で対応するに

は。予想を上回って300年の試行錯誤を要した。従って、コール

ドスリープ社のビジネスモデルが意味を持ったのも、肺と心臓の人

工臓器技術が確立した2300年までのことであったし、不完全な

がらも人工臓器が使い物になった2200年以降においては、僅か

に残された聖地、大脳皮質の疾患がコールドスリープに賭ける唯一

の根拠となっている。

しかし、彼が目覚めたとき。それは、1300年後の世界だった。

本来ならば、備蓄した供給物を使い切って、収容者が餓死するリミ

ットを6回超えたことになる。その証拠に、装置には、幾度かは不

明なものの、その時々の、様々な改善が組み込まれていた。


2. ケイカホーコク

ボクハ、ナンニンカノ、ザワメクコエニ、オコサレタ。

コエハ、「オキナイゾ」トイッテイタ。

ボクハ、「オキテイル」トコタエタカッタガ、シタガマヒシテイタ。

ヤムヲエズ、テヲアゲヨウトシタガ、コレモシッパイ。

コマッテイタラ、ウエノホウカラコエガキコエタ。

「ボクハ、オキテイマス」

ボクハ、「マタゲンチョウガハジマッタ」「クスリヲノマサレル」トオモッタ。フタタビコエガシタンダ。

「マタ、ゲンチョウガハジマリマシタ」

「ボクハ、クスリヲノマサレルニチガイナイ」

イツモトチガッテ、オンナノヒトノコエガキコエタ。

「ダイジョウブ。クスリハノマナクテイイカラ」

コレガボクノサイショノカイワ。

ドクタースミスガ、イッタ。

アトデボクガミレルヨウニ、キロクノレンシュウ、シヨウネ。

マダ、ナレナイ。

テヲツカワズニカクノハ、キモチワルイ。

3. ドクタースミス

ドクタースミスハ、イシャジャナイミタイ。

コウコガクシャナンダッテ。

ツイデイウト、スミスデモナイ。

ハツオンガ トテモムズカシイ。

ドクタースミスハ、ボクガムカシミタTVバングミノアクヤク。

ウチュウカゾク ロビンソン。

デテキタアイボウハ ロボットノ フライデー。

「コウテイシマス」

「コウテイシマス」

クリカエシノオオイキロクハダメナンダッテ。

ループスルト、キロクシステムガコワレル。

1000ネンモムカシノ、ローテクシステム。

ボクジシンガ、イキテイルカセキ。

キセキ?

ドッチデモイイヤ。

4. シーラカンス

今日から、日本語のデータをリンク出来るようにしたんだそうな。

記録を見返すのも、ずいぶん楽ちん。

僕の居る部屋は、ローテクシステムでかためてあるそうな。

ベッドも机も、椅子も、食べ物だって。

ドクタースミスが説明するとき、いつも「このオモチャは」と、大まじめに切り出すんだ。僕は笑っちゃったよ。

ここ自体が博物館の展示室みたいな。

1000年近く古いシステムを再現したんだって。

それでも、最大のだしものは僕。なんといっても、生きている化石だからね。

いきなり最新のシステムにすると、僕がショックで死んでしまうと配慮したんだとか。

早く、最新のシステムになれて、外の景色が見たいな。

随分変わっているはずだけど、ドクタースミスは、そんなに変わらないという。変わったのは、情報量と、その持って行く場所だけなんだそうな。

情報革命は、僕の生きていた頃には始まっていたけど、加速度的に進化するのが、特徴だったそうな。

そうそう。今日は、口から食べ物を入れる練習をしたよ。

今日はじめて、ベッドから立てたよ。

明日から、舌を動かして声を出す練習をするんだって。

僕って、凄いじゃん。

5.    ウルトラセブン

今日は、ゴーグルの使い方を教わった。

ウルトラセブンみたいに、しゃれたメガネ。

でも、すごいんだ。

目に見えるものに、「?」というハテナマークを感じると

文字で説明してくれる。しかも、その説明が、僕にはとてもわかりやすいように感じられるんだ。

多分、簡単な一言説明のあとで、2次元平面を駆使して、歴史や、メリット、デメリット、典型例と派生系を画像表示してくれるのが、僕の思った順序で再生されてるんだと思う。

ローテクシステムとのつなぎは、まだ不十分らしいけど。。

僕は、これがあれば、外に出ても鬼に金棒と思ったね。

6.    仮装大会

明日は、はれて外出が許された日。

僕とドクターは、最新のスーツを着てみた。

ものすごく軽くて、しかも、ゴーグルと一体化している。

なにしろ、僕の身体は老人と同じくらい萎縮しているから、僕のスーツには筋力の補助機能もついているんだそうな。

それでも、二人とも裸に近い感じにみえちゃうので、僕は少し興奮しちゃった。

恥ずかしいけど、こんなことでも、システムを使うと、何でもないことみたいに記録出来ちゃう。

多分、僕も、シーラカンスや北京原人から、進化しているのかもしれない。

7.    ふきわたる風

僕は、ついに外の世界に飛び出したよ。

外の世界は空気が流れていて、心地よかったよ。

光も明るく、木々の緑もきれいダッタよ。

そのとき気付いたんだけど、ゴーグル越しの映像には僕の記憶に基づいた補正がなされているらしい。

本当は、ドクタースミス達の顔は、あごが異様に細くて、昔見た火星人のようだよ。足腰も異様に細いんだ。

5人居た人々の中で、一人だけが僕に話しかけるうちに、彼らを冷静に観察して気付いたんだ。

彼らの代表者は、別の建物で、僕に質問したよ。

どんな気分かと。

僕は、とても気分が良いと答えたよ。

それなら、君は、今や病気ではないと、代表者は言ったよ。

僕は、それもこれも、ドクタースミスのおかげですと。

僕は嬉しくなって、隣に居たドクタースミスにすり寄って、彼女にキスしたんだ。

そこから、全てが暗転したよ。

ドクタースミスは卒倒した。

5人ともパニックになって、何か、わからない声をあげてパニックになった。

僕も、また、看護士に取り押さえられる気がして、大声で叫んで5人をなぎ倒したよ。

彼らは、木っ端みじんになぎ倒されたよ。

僕はスーパーマンになった気分だった。

しかし、そこで記憶が途切れたよ。

クゥワック。

8.    過去の記録

次にドクタースミスに出会った時は、ドクタースミスはエナジーバリアの向こうにいたよ。

透明だけど、バリアの中からは、急激な動きが封じられてしまうんだ。

ドクタースミスは悲しそうに言った。

僕の記録を再検討しているんだそうな。

そこで、あらたな問題が発見されたそうな。

僕は、僕の病気は、もともと、社会的な病気であったそうな。

今や、ドクタースミスも感染してるそうな。

全ては、僕の脳にインプットされている記憶から再構築された記録で確認されたそうな。

僕の父親、ホワイトボーイの目論みは外れたよ。

僕の病気は、テクノロジでは解決出来ない病気だったそうな。

彼らの時代には消えてしまったと思われていたけれど、ドクタースミスの発病が、彼らの考えを変えたらしいよ。

9.    良心

僕も、彼らの、直接接触しない繁殖方法は、理解していたよ。

それでも、僕は僕であり続けるしか無い。

でも、僕は、自分の良心の声に従ったよ。

僕の生まれた時代では、僕は単なる狂人だった。

しかし、この時代においては、危険な異端者になっていたんだ。

この時代にはもはや存在しない、病原菌以下の存在だ。

僕の時代では、僕には存在意義があった。

この時代においては、僕の存在は全く無意味なんだ。

彼らは間違っているけれども、僕は記録システムに向かって自分の意志を伝えたよ。

モウイチド ネムリタイ

10.    ドクタースミスの涙

今日、はじめて、ドクタースミスの涙を見た。

博物館クラスのシステムであれ、一部は、セントラルプロセシングユニットの幹線につなげてあるんだって。

それで、僕の経過で、いくつか倫理規定に違反しているのが明らかになったんだそうな。

ドクタースミスの努力は、あまり評価されずに、ドクターに対する問責が行われようとしているんだそうな。

ドクターとしては、抗議しているけど、うまくいっていないんだそうな。

僕が彼女の涙を指で触れると、あたたかかった。

エナジーバリアも、ゆっくりした動きには寛大だったんだ。

彼女は、ビクっと身をひいたけれど、僕も泣いていたので、彼女はおそるおそる、僕の涙に指で触れた。

僕は、僕に何があっても、許されるような気持ちがした。

11.    エピローグ

僕は再び眠らされて、遥かな旅路に踏み出す。また、グリーンボーイに会えるだろう。ががががが。

もしかしたら、このまま朽ち果てるかもしれない。永遠に目覚めないかもしれない。僕は知らない。

誰が気にかけようか?

精神病は実在するのか

昔、反精神医学という運動がありました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8D%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E5%8C%BB%E5%AD%A6

精神病患者とされた人々に、施設職員を管理させるなど、人権ファーストな試みが行われましたが、指導者の家族の死によって終結された例もあるようです。私は、それを失敗と捉え、同一視されることを拒否します。

しかし、あえて、「精神病は社会的な病」と規定したいのです。

精神病は実在します。急性期にある患者さんをまのあたりにした人なら、誰もが、「原因無く、このような変化を説明出来ない」と言うでしょう。個別の原因があるに違い有りません。

一方で、社会が変わるごとに、精神病の定義も患者数も変わるのは、自明です。

私には、その患者数が0になる社会こそが、理想の社会に思えるのです。

ブーケ

1 はじめのはじまり

202X年、ロサンジェルスの製薬会社タイレル社は、製薬業界でも未曾有の収益をあげた。5年前に発表した自閉症スペクトラム障害(知的障害である自閉症から、知的障害の無いアスペルガー障害、高機能自閉症を含む様々な中枢神経脆弱性を疑われる症例群)の特効薬、ブーケの売り上げによるものである。

しかし、この薬には謎も多かった。治験による効果検証、副作用の確認は順調であったものの、薬理作用を説明する文書には、ただ、「主成分である新発見のタンパク質による」とのみ記載された。

10年以上入院していた患者達が、次々と自立を始めたのは、奇跡として受け入れられた。何よりも、1~2ヶ月の服薬後、断薬しても、効果が1年以上継続するという、これまでの精神病薬にない特性が、医療現場からも宗教界からも支持された。福祉関係者の多い宗教施設で、その効果を目の当たりにしたためである。

先進諸国による対応は、慎重さを求めることができなかった。

一つには、治験段階で驚異的な効果を患者家族会、当事者会が知るところとなり、彼らがマスコミとインターネットをリードした。

二つめには、当時のアメリカは大統領再選の直前であり、大統領自身が親族に患者をかかえていることを、明らかにしていたためである。

三つめには、その患者は、特別に治験名目でブーケを利用しており、すでに症状改善の事実があると、大手新聞社に、すっぱぬかれたためである。

アメリカ大統領のローズウォーター氏は、マスコミ会見を開催した。

以下は、ブーケ発表後1年後における、マスコミ界きっての福祉団体通で、全米障害者家族会の理事でもある、ヨーダ氏との会見模様である。

(この番組は、TVの視聴率としては異例の90%をたたきだした。あっけないほど短い出来レースを演じた40歳の大統領よりも、90歳を超える高齢でありながら、千両役者としての真価を発揮したヨーダ氏の名声を高めた)

ローズウォーター:「私の兄は、アメリカ国民全体の利益のために、犠牲的な実験に身を捧げた。ブーケという薬の治験に、本人の意志で参加したのです。この兄にかわり、私には、この薬の有効性の証人になる用意がある」

ヨーダ:「すでに多くの、圧倒的な効果を示す治験例がインターネット上で公開されています。追加の証人は、今や不要です。大統領」

ローズウォーター:「FDA(食品医薬品局)には、再三にわたって、可能な限り審査を急ぐように、促している。これ以上の権限行使は、独裁となりかねないほどだ」

ヨーダ:「私どもは、公表前から、ブーケを使用した、ある改善例を抑えております。その症例は、すでに断薬後、2年を経過しております」

(周囲からヒューという声。)

ヨーダ:「大統領。この国は自由の国と呼ばれて来ました。開拓精神が尊ばれ、自分の運命を自分で決めることを尊しとしてきました。あなたが、ご親族に適用した自由を、今こそ、他の国民にもお分けするときでは?」

ローズウォーター:(しばし間を置いて、いつもの快活な表情に戻った)

「実は、FDA、CBER(生物学的製剤評価研究センター)、CDER(医薬品評価研究センター)、およびCVM(動物薬センター)には別途、専門家によるプロジェクトチームの総合的な判断結果をつきつけてある。1ヶ月以内に、FDAに、結論を出させることを約束しましょう」

認可などは差し置いて、治験用サンプルは闇値で取引された。「頭が良くなる夢の薬」と、健常者が盗り合う事態となり、マスコミは更なるパニック状態に陥ることとなる。

ひとり不満を唱えたのが、タイレル社以外の製薬業界と薬学会であった。

追随しようと言う懸命の探索空しく、なにひとつ掴めないのだった。

主成分が持つとされる嫌気性のために、徐放カプセルには、複雑な蛋白層が配置されるとされていた。カプセルをばらすと、成分は一分以内に分解変成した。

 

2 夢の薬

薬学会は、くやしまぎれに、「狂牛病の原因物質であるプリオンの系統ではないか?」という、プリオン仮説を提出して、製造工程を明らかにするように迫った。従来の製薬会社に追随するマスコミもあり、「怪しげな寄生虫」「薬剤としての認可は人類への脅威」「情報公開あるまで使用禁止」とうたった。

しかし、薬効を示す側にまわって、一流にのしあがる媒体も多かった。

以下は薬学会の重鎮、ポンパドール氏とタイレル氏の、中立なTV局でのやりとりである。

ポンパドール:(仕立ての良い白いスーツ姿である。恰幅が良くて、しかも高圧的。脂ぎって、はげ上がった頭部はスタジオの照明で、輝いている。まるで、こちらのほうが企業人に見える)

「薬事審査会は、タイレル社に製造工程の公開を求めている」

タイレル:(かたやダークスーツに身を固め、やせぎすである。疲れた目線はもの憂い。対照的に、ポンパドール氏より、学者風の風貌をたたえていた。)

「その条件に応じられない理由は、大手製薬会社の顧問であるあなたには、明らかな筈です」

ポンパドール:「創業者利益は守ると約束出来る。それでも、倫理的な責任を感じないのかね?」

タイレル:「その表現は、我々に疑いを抱いているととれます」

ポンパドール:「なぜ、薬を、あんなにも厳重なベールで守る必要があるのか?疑心暗鬼も当然のことだ」

タイレル:「カプセル内の徐放タンパクも必要な成分のひとつです。」

ポンパドール:「我々は、何度も条件をかえながら、辛抱強く実験をし、分析を繰り返した。そのたびに変成した、茶色のネバネバした液体を得ただけだ。服薬者の死後脳を分析しても、何も見つからない。真空中で解析しようにも、X線解析やNMR解析では、分解後の分子成分比や鉄分の分布しかわかっとらん。そもそも安定化合物でなく、こんなにも変成しやすい薬剤など薬剤と言えない。中枢に作用するとなると、狂牛病やスクレイピー病の原因とされるプリオン系ではないのか?

。。。。君の開発した薬も、その薬効も、はなはだ疑わしい。」

タイレル:「あなたの顧問されている会社が、我が社の技術をリバースエンジニアリングしようとして放った産業スパイがいました。我が社の自衛チームが、昨日確保しました。これも、あなたの疑心暗鬼の結果なのでしょうか?」

ポンパドール:(顔を真っ赤に紅潮させている)

「おまえのような、高慢な若造に、そんなに優れた薬剤を開発出来る筈がないのだ。お前はプリオン使いの詐欺師だ」

タイレル:「ドクター。私は。若く見られますが、ドクターとは5歳しか違いません。後半のご発言は、、、失礼ながら、ドクターの品格をおとしめる発言かと存じます」

ポンパドール:「いずれ、お前の化けの皮ははがれる。プリオンの疑いは解けていないぞ」

タイレル:「ドクターに一つだけ情報を提供致しましょう。

我が社の最新の製造ラインでは、検査工程にプリオン脳を持つラットが使われるようになりました。我が社の研究者が、すぐにでも実験映像を公開する用意があります。ブーケは、今や、スクレイピー病にも、狂牛病にも薬効を示しているのです。」

確かに、この会見で、よくわからないタンパク質というだけでプリオン呼ばわりした事で、かえって反対派が信用を失う契機となった。

結局、アメリカでも、製造工程は企業秘密のまま、認可せざるを得なかった。

少なくとも、CVM(動物薬センター)だけは、責務を追試により果たした。

世界各国でも、次々と認可が、なかば追認というかたちでとられた。

 

3 静かな証人

以下は、認可から2ヶ月後にローカルTV局に流れた画像である。

インターネットでも、再三、形を変えて流れている。

インタビュアは切れ者と有名な映画監督マストロ=マエストロ氏、相手はグレイの僧侶のような布をまとい、剃りあげたチキンヘッドが光る、ヤギヒゲを蓄えた、やせぎすな初老の紳士である。

マエストロ:「あなたの名前を教えてくださいますか」

(鋭い視線を送る。これから、ショウタイムが始まるという雰囲気である)

紳士:「ヤン=スーと申します」

(東洋人のように、両手を合わせ、深々と頭を下げた。二重のひとみは落ち着いて、前を見据え、限りなくおだやかだ。)

マエストロ:「ご職業は何ですか」

紳士:「現在は、。。。数学者です」

マエストロ:「失礼。あなたは、我が国でも有数の数学者ですよね。

私も、知りながら、問わねばならなかった」

紳士:「結構ですよ。私は、ある薬を飲むまでの、23年間というもの、片田舎の作業所で、段ボール箱を組み立てるだけの、社会の厄介者でした。」

マエストロ:「確かに、あなたの前歴は、ある日大学に訪れて、そこの教授に気に入られたというエピソードしか明らかではないですね。で、その薬の名前は?」

紳士:「ブーケです」

マエストロ:「。。。これは驚きました。あなたは、「4色問題のエレガント解」と称する、たった2ページの論文で、フィールズ賞を受賞されたとうかがってます。それ以前の証明は、スーパーコンピュータを1200時間使って場合分けの数を調べ尽くす、力づくの証明でした。私が知る限りの数学界において、あなたこそ、天才と呼ばれています。」

紳士:「私はパズルが好きなだけです。たまたま、産業界で、うまい応用が見つかっただけなのです」

マエストロ:「なぜ、ご自分に不利なことを公表することに?」

紳士:「大切なのは、私が自分の人生を取り戻した事です。この薬により得られた価値を、世界に知って頂き、かつての同胞、これからの同胞と、分かち合うためです。ここに座って、この事実を話す事は、神聖な、私の責務なのです。」

マエストロ:「ブーケは、あなたにどう作用したのですか」

紳士:「私の頭脳は、長らく、暗い牢獄につながれた奴隷でした。

人生は苦痛そのもの。未来には死の陰しか見えず、私はそれと向き合うことしかできなかった。

毎日の時間を、ただ、段ボールの面の数、辺の数、頂点の数を数える事に集中していたのです。“面の数、辺の数、頂点の数”です。

作業の無い日は、頭の中で数えていました。“面の数、辺の数、頂点の数”。全てはその繰り返し。

やることが無くなった夜、それをやりすごすには、メチルフェニデート(覚せい剤の一種とされる)しか無かった。」

マエストロ:「リタリンのことですか」

紳士:「私の場合は、コンサータです」

マエストロ:「今も薬剤依存ですか」

紳士:「この3年間は、何も飲んでおりません。

20年のみ続けた眠剤と頭痛薬それに胃薬もです」

 

4 早すぎる終焉

以下は、203X年に、ネットに速報されたニュースである。

未だに、ブーケに関する議論は尽きないが、以下が結末である。

タイレル氏軍事施設に収容さる

——ブーケの製造工程に重大な犯罪——

——タイレル氏自身がブーケの犠牲者。精神鑑定も——

X月X日未明。AP

ブーケ製造工程で、死後のヒト脳が使われているという事実がCIAにより明らかになった。

身柄を確保した関係筋の証言では、ブーケの中心成分は隕石から抽出したタンパク質とされ、タイレル氏自身が、最初の服薬を行ったとしている。

タイレル氏が、「中枢に機能するこの新しい免疫体を取り込むのは、ミトコンドリアを取り込んだ我々の祖先の進化に続く進化である」と語ったとされる風評は、「発信源が確認出来ない」としている。

タイレル氏は、場所は明かせないものの、軍事施設において、厳重に隔離されている模様。

著名な数学者ヤン=スー氏の遺体がシアトル沖に見つかる

~政府は、暴徒化した市民を鎮圧するとともに、虐殺防止を呼びかけている~

X月Y日未明。AP

ローズウォーター大統領の記者会見によると、流通したブーケは出荷記録、処方記録とつきあわせて追跡調査および回収が進んでいる。平静を保つようように、重ねて呼びかけた。

虐殺された人の数は、世界で10万とも、100万とも、1000万とも言われる。公式発表の100倍弱がおおむねマスコミの見方だ。

夜間の戒厳令をしいた国は23に及ぶ。放火や略奪、集団による襲撃も相次いだ。軍隊と交戦した集団、軍隊同士の内乱もあったという。

カソリック教会、プロテスタント教会、ギリシャ正教寺院、イスラム教礼拝所、仏教寺院をはじめとする宗教関係施設では、神の怒りを鎮めるために、連日にわたる祈りが捧げられた。事態が収束したのは、1ヶ月したころである。

タイレル氏が身柄拘束時において死亡していたことが判明

——ブーケ製造施設のコンピュータに自滅プログラム——

——タイレル氏の義歯に青酸——

Y月Y日。AP

CIAの内部資料公開により明らかになった

後日、あるインターネット掲示板で集められた、推測の数々である

 

ブーケ賛成派)多数であり多様

1)      タイレル生存説:CIAの情報は、タイレルを取り逃がしたので作り上げたデマである。いつかタイレルはブーケ製造を再開する。

2)      タイレル宇宙人説:彼はキリストの再来であったがために処刑された。

彼の肉体は拡散して地球の大気に漂い、近い将来の救済を祝福している。

やがて、人類にとって、新しい夜明けが来る。

3)      ライバル社とCIAによる暗殺説:タイレル社爆破一週間後、CIA幹部に莫大な金が流れた証拠が見つかっている。

4)      事故説:「ヒト脳以外からブーケを製造する方法は完成していた」と、タイレル社守備チーム唯一の生存者が漏らした。生存者は、「最終工程のプロセスはタイレル一人が作成したプログラムであり、今や、同じ物はおろか、類似物すら作れない。」と語った。

「自爆プログラムは、解除しても良かったのだが、CIAが動き出した時に、解除しきれておらず、軍隊の突入時に動作した。

自爆プログラムが働いたのは、純粋に事故だった。」

 

ブーケ反対派)少数だが強硬

1)      タイレル自殺説:CIAの追求で、自らの非人道的な行為の責任をとった。彼は単なる気違い科学者で、おそらくは宇宙の細菌に侵されていた。

2)      大統領による謀殺説:再選するために、タイレルの悪事を封印した。悪事に加担した大統領にとって、有能であったが、タイレルは野心家でもあったがために、抹殺せざるを得なかった。

3)      ブーケ茶番説:ブーケはプラセボ(擬薬)だった。:製薬会社を手玉にとることだけを目指した、精巧なタンパク質というだけのカプセルだった。勿論、タイレルは一流のペテン士である。

4)      ヤン=スー茶番説:ヤン=スー自身もプラセボの宣伝役者だった

全てのからくりを闇に葬るべく、まっさきに、仲間の手で葬られた。

今回の一連の破綻は、神による裁きの結果である。

 

5 付記

この不幸な事件の後で、発達障害者達の希望職種に明らかな偏りが見られるようになった。それは、薬学と地質学の志望者が増えたことである。

段ボール組み立て作業を希望するものは、、、残念な事に、年々僅かな減少傾向にある。

薬信仰への危惧

最初に掲載するのは、精神障害者および知的障害者、その家族が、待ち望む、夢の新薬のおはなしです。

これら、永続すると思える、苦痛の救世主を、切ないまでに夢見ることは、罪ではありません。

ダニエルキイスの「アルジャーノンへ花束を」および、映画「まごころを君に」は、名作であり、全てのテクノロジーが持つ宿命である、適用期間、適用範囲といったものの有限性が語られました。

SFファンとして、この名作を、意図的に真似たものの、付け加えたかった想いは、オリジナルでした。

すなわち、薬による救済には、常に副作用があり、もしかしたら、倫理的な反動が、現状の現場と同じくらいありうるという危うさです。

例えば、SSRI(セロトニン再取込み阻害薬)です。従来の、ドーパミンを押さえ込む抗精神病薬が、患者の問題行動を抑えるとともに、寝たきり、垂れ流しにする事例を出したことから、アンチテーゼとなりました。ハッピードラッグなどと揶揄されながら、全世界に普及。2000年頃の米国では、健忘を主訴とする多数の訴訟を招きました。日本で問題視されたのは、衝動性の亢進による自殺です。健忘、衝動性、ともに、元の疾病が原因と、医師達は主張します。

科学は進歩しますが、常に、諸刃の刃なのです。

まず、飲む者が、学ばねばなりません。

地上の旅人によるSF小説の試み

中学生の時、はじめてSF小説を読んでから、46年が経過しました。

ブラウン、クラーク、ブラッドベリ、胸躍る体験でした。

やがて、レム、ルグイン、ディック、と続きました。

訳あって、精神病と自殺回避を人生のテーマに選択して、何作か好き放題に書きました。

目的を持った執筆であるので、同人誌掲載から、ネット公開に方針転換いたします。

プロを目指す訳でなく、ネットに永久に残るとも、思いません。

ただ、書かずに居られないだけです。